うつ病 VS. 更年期障害

今年はいつ梅雨に入ったのかハッキリしない年でしたが、梅雨明けもどうも遅くなっているようです。このコラムを書いている現時点では大雨による災害があちこちで発生しており、雨も降らなきゃ夏に水不足で困るとは言え、過ぎたるは何とかでもあり、被災地の方々には心よりお悔やみを申し上げます。

さて、話題は変わりまして、来る8月10日に我々の所属しておりますNPO法人F.M.Lの3名の医師がそれぞれの専門分野から｢髪｣についてまとめた『薄毛・抜け毛を治す』という本が＜講談社健康ライブラリー＞から発売になります。

今回は、髪・頭皮の基本的な部分は、我が国の“発毛医療の父”とも言える、徳島大学名誉教授（皮膚科学）の武田克之先生、発毛も含めた植毛医療など外科的な見地などからは脇坂ナカツクリニック院長（形成外科学）の脇坂長興先生、そして髪のかかわるメンタルヘルスの立場からは小生（精神科学）と、手前味噌ではございますがこのような異なる3つの専門分野の医師が協力して書き上げた「髪の毛」の本は本邦初公開であろうと思われます。この本は決して専門的な医学書などではなく、一般の方々に現在の髪の毛の医療についての最前線をまとめた物として御一読いただければ幸いです。

おかげさまで我がクリニックは髪の毛のクリニックとしては世間的にもかなり認知されるようになって来ました。しかし我々の目指すところは真のアンチエイジング医療であり、髪の医療はあくまでもその一環と捉えております。

以前より当クリニックでは｢男性更年期外来｣なるものも、札幌医大名誉教授（泌尿器科学）熊本悦明先生、帝京大学医学部教授（泌尿器科学）堀江重郎先生と、これまたメンタル方面からは私が担当し、強力なタッグを組んでの診療を行っております。実はこちらも両先生の監修で、＜ライフサイエンス社＞より近々『更年期から熟年期への男性医学〜active
and successful aging〜』というタイトルで（これはかなり多くの先生方による執筆で専門書に近い本ですが）出版される予定です。私は「男性更年期外来における精神科治療学」という稿を執筆させていただきました。発売の暁にはまた御報告させていただきます。

更年期障害といえば閉経前後の女性における “専売特許”のように昔から思われていたのですが、最近になってこれが男性にもあるぞ！というわけなのです。男にしても女にしても更年期障害の根本的な要因は、男性ホルモン、女性ホルモンの量が減ってくることに起因します。女性の場合は閉経を境に極端にホルモン量が減りますから、その状態に自律神経が上手くついていけないと様々な症状を呈するわけです。

それでも人間よくしたもので、ホルモンが減ったら減ったなりに体調を合わせる事は可能なのです。だって80歳過ぎても更年期障害を訴え続けるお婆ちゃんなんて見た事も聞いた事も無いでしょう皆さん。

一方で男性は女性のように急激にホルモンが減少しませんから、突然更年期障害としての自覚症状を認める事はまずありません。しかし徐々に忍び寄ってくる症状が、気力低下、意欲が湧かない、性欲低下etc.といった症状だと言えば・・・・、そうです！『うつ病』の症状にかなり酷似しているわけですね。

我々が取り扱う学問は“医学”である以上、当然“科学”であり、客観的なデータ、適切な診断基準などが求められる事は重々承知しております。しかし現在の医学が万能ではないのですから、これ以上のことはよく解らない！という壁は臨床現場にはいくつもあります。そんなケースが往々にして「そりゃ〜あんた、気のせいだ！」と主治医に言われて精神科に送り込まれるのでございます。

ここで申し上げたい事とは、我々はここでその診断が『うつ病』であるのか、『更年期障害』であるかを鑑別しているのではないと言うことです。この病名は精神科が診て、この診断は泌尿器科が診るではなく、うちのクリニックに来てもらったからには確定診断はどうあれ、関係各科が総力を挙げて兎にも角にも“良くなって貰う”こと！に尽きるわけです。

臨床医の一番の使命とは、患者さんの訴えをいかに軽減できるか、症状を改善できるかです。確定診断が「うつ病」であろうが「更年期障害」であろうがそんな事は二の次です（と言っては言いすぎでしょうけど）。しかし医療の歴史とは臨床現場の体験や経験の積み重ねから、客観的なデータ、適切な診断基準などが確立しているはずですよね。

「お酒を飲ませてもらえるなら“ビール”でも“発泡酒”でも、どっちでもいいからお願いっ！！」何て言っていたら、そりゃ〜単なるアルコール依存症じゃない？ってことになっちゃいますけどね・・・。どうぞ皆様、素敵な夏をお過ごしください。