理事長の呟き

〜アンチエイジング医療に邁進する精神科医のひとり言〜

Vol.037

不安への対応

最近外来診療をしていて思う事のひとつに、「不安」を訴える患者さんが多くなっているように思います。「抜け毛が多くなって不安」って、これは発毛外来では当たり前の訴えでありまして、今回はそちらの方ではなく純然たるメンタルヘルスの外来での事でございます。例えば「通勤電車で大勢の人の中にいると、急に息が出来なくなってしまいそうで不安になる・・・」とか、「勤務中に突然胸が締め付けられそうな感じになって不安感が増強する・・・」といった感じの訴えです。

人が不安になるときは、多くの場合その不安に対してそれなりの理由があるはずです。例えばあなたが『明日大切な取引先に対して、たった1人でプレゼンテーションをしなくてはならないのに全く準備が出来ていない!』そんな状態を想像してください。よほどの人でない限りかなり不安になるはずですよね。この状況では、その不安の理由は色々と考えられます。『明日』という期日に対しての不安か?『取引先の大切さ』に対しての不安か?『1人』で行うことの不安か?『プレゼンテーション』の内容における不安か?

そして、不安の理由が明確となったところで、次にその不安をどう解消したらよいのか?そこには一般的に“防衛機制”というものが働きます。そこで防衛機制なるものを簡単に説明すると、“不安に駆られた自分の心を様々な方法で守ること”なのですが、その方法は時と場合によって色々なのです。少し専門的な言葉を使って説明させていただきますと、「抑圧」「取り入れ」「同一化」「投射」「反動形成」「分離」「復元」「合理化」「退行」「昇華」「置き換え」といったものがありまして、これらを全部ここで説明しだすと今回のコラムを途中で読まなくなる人が多発しますので、どこかの検索エンジンに「防衛機制」をかけて御参照ください。よく読めば「な〜んだそんな事、無意識のうちにやってらぁ〜」を業界で小難しく言っているだけですけどね。

ところが先述の通勤電車云々の不安は、自分でも理由の良く分からない不安なものですから、上手く防衛機制が作用しない為、ますます不安が増強してしまい、ケースによってはパニック発作まで引き起こしたりするのです。こうなってしまうと防衛機制でどうこうの範疇ではなく、当方における外来治療が必要な症例と相成ります。

さてそこで、皆さんの中で自転車に乗れない方はいらっしゃいますでしょうか?私の育ったような田舎町では自転車は生活をしていく上でなくてはならない必需品であり、当時通っていた高校では殆どの生徒が自転車を使っていました。今でこそ駅まで徒歩圏に住み、電車通勤をしている日常において、自転車なんてここ何年も乗っていないような気もします。今すぐに乗ってみろと言われたら、よほどそれが特殊なデザインであるとか、サイズが体型に全然合わないものでもない限り「ハイハイ、いいですよ」と鼻歌まじりにふらっとそこいらを一周して来ること位はお安い御用です。(タブン)

つまりこれは“自転車なんていつでも乗れるに決まってるぜ!”という「自信」がそうさせているからで、皆さんも幼い頃に補助輪をつけて自転車に乗り始めて、いよいよその補助輪を外して一人で走るときの不安感を思い出してみてください。そこでは必ず荷台を持っていてもらい「絶対にい・い・って言うまで放さないでねっ!絶対だ・か・ら・ねっ!」こんなやり取りは誰でもきっとあったはずです。つまりそれは、補助輪のない、下手をしたら転倒してしまうであろう普通の自転車に乗る事に対して、全身全霊が「不安」の塊になっていたからです。

そして何度か痛い思いをして、コツをつかんで、一人前に乗りこなすようになっていくと「不安」の塊が、ともするといつの間にやら「自信」(過剰まで?)へと変貌を遂げるわけですね。つまるところ「不安」と「自信」はシーソーの右と左であり、「不安」を何とか解消しようではなく、どうすれば「自信」がつくのかを考えて行動すれば、おのずと不安の方から消えて行ってくれるはずなのです。

以前、髪がドンドン減って不安で仕方がなく、予備校にも通えなくなったと訴える、髪は何処からどう見ても“フサフサ”の浪人生くんに「君に今足らないのは髪じゃない!自信と偏差値だ!」と言って髪の毛の治療には導入させませんでした。正直ここで行っている治療とは、不安を解消する事ではなく、自信をつけていただく治療であると思います。これは髪に限らず、メンタルヘルスの方にも言えることですし、とどのつまり『医療』とは結局そういうものではないかとつくづく思う今日この頃です。

そうは言いながらも、今のところ髪は自信がありますが、家庭生活は“ちゃんと理由のある”不安だらけって、いつもの事ですけど。はい。

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