理事長の呟き

〜アンチエイジング医療に邁進する精神科医のひとり言〜

Vol.052

とある睡眠薬の開発

ほんとですかね〜?3兆5千億万円!凄い金額ですよね〜。勿論、私のお小遣いの話ではありません。これは先日報告された「睡眠障害における我が国の経済に及ぼす1年間の損失額」だそうです。あの村上ファンドも真っ青な金額と言えましょう。

以前確かこのコラムでも米国睡眠障害研究委員会の報告(Wake Up America)は、チェルノブイリの原発事故もチャレンジャー号の墜落事故もスタッフの睡眠障害(不足)による影響があるとした報告がなされていると書きましたが、今回はこれの日本版が発表されたというわけですね。ちなみにアメリカではその当時で460億ドル(仮に1ドル=110円としても5兆円以上!)の損失といっていましたから、今ならもっと凄い額になるのでしょう。

具体的には睡眠障害による翌日の日中の労働力への影響や、勤務中における集中力の低下や不注意により発生した事故などによる損失を計算したようですが、それでは全国民がスヤスヤ、グッスリと眠る事だけでこれらが解決できたとしたら、老若男女を問わず国民一人に年間約3万円のボーナスが支給可能になりますが如何でしょうか?

ただし、これらは睡眠障害という「疾病」が存在する上での計算であり、もう少し眠りたいのだけれど仕事が忙しくて、または勤務の都合上どうしても不規則に、といった物理的に睡眠時間がとれないケースは除いているはずですから、そういった皆々様方の睡眠不足を合算すればもっとビックリの金額となること請け合いです。

そこで、そのような睡眠障害を改善してくれるものの一つに「睡眠薬」があるのは御存知のことでしょう。私も日々の臨床の現場では処方を致しております。種類は色々とありますが、大まかには『体内で薬が効いている時間の長さに違いがある』と考えていただいていればよろしいかと思います。

つまり「とにかく寝つきが悪くて、そのかわり一度寝てさえしまえば朝までぐっすり」といったタイプには作用時間の短い“睡眠導入剤”のような薬が最適でしょう。逆に「寝つきは良いのだけど何度も途中で目が覚めて辛い」といったタイプには、もう少し作用時間が長い睡眠薬が有効かと思います。そして早朝に目が覚めて、もう少し寝たくてもそこから眠れずに辛い」と訴える方には長時間作用型で朝まで効果が残るものがお勧めです。しかし、朝になっても薬効が残りすぎてしまうと、なかなか起きられない、午前中はボーっとしてしまう、といった問題が生じますから薬剤の選択には注意が必要です。

我が国には水無しで飲める“チュアブルタイプ”の睡眠薬が一つあるのを御存知でしょうか?その名を「レンドルミンD」と言いますが、実はこれが世に出るにあたって私の提案がきっかけになったお話を少しさせていただきます。

大学病院に勤務していた頃のお話です。大学病院の給料は仕事量の割に決して「たくさん」とは言えない為、週末に他の病院へ非常勤として勤務する事は珍しくありません。私も総合病院のリエゾンと、その病院に付設している老健施設の診療に出向いておりました。老健施設とは御存知のとおり「認知症」の方々が入所生活をされていらっしゃるわけですが、これらの方々が御自宅で介護が困難になる要因の一つに「夜間の徘徊」があります。これが頻出すると同居している家族は一晩中対応をしなくてはならず睡眠がとれなくなり遂に自宅での介護を諦めてしまわれる事になります。

認知症の症状は環境変化によって悪化する事が多く、自宅でそんな状況であれば施設ではなおさらと言うことになります。そこで睡眠導入剤の登場とあいなりますが、本人自身は今が夜中で寝なくてはいけない時間であるという事が理解できない(から認知症なのですが)ため内服を促しても拒薬されてしまう事も少なくありません。そこで担当の医療従事者が半ば強制的に内服させて咽込んでしまう⇒誤嚥させてしまう⇒誤嚥性肺炎を発症する。といった展開を全国の施設で頻出している事は明らかであると確信しました。

そこで水無しで飲める(チュアブル)タイプの睡眠薬があれば、無理に水を流し込んで誤嚥させる事も無いし、高齢者の誤嚥性肺炎が減れば我が国の医療費の削減にも大きな手助けになる!そうすれば日本中の高齢者を担当する医療施設をこの眠剤で制覇できるに違いない!それに一般的な睡眠障害でも自宅で深夜に途中で目が覚めてしまい、再入眠出来ない時も枕元においておけば布団から出ることなく眠剤を内服できるぞ!そんな半ば妄想的になった状態で当時の大学病院担当のメーカーのT氏に話を持ち掛けたところ、随分経ってから言った当人は忘れかかっていた頃になって

 

担当T氏:「で、で、出来ました。先生!」

私:「何が出来たの?彼女?よかったじゃな〜い、結婚まで漕ぎ着けそう?」

担当T氏:「違いますよ〜、以前先生が言ってたあれですよ、あれ」

私:「あれって、ひょっとして、チュアブル?」

担当T氏:「そーそーそれです、それです」

私:「ひぇー、ホントに出来ちゃったんだ」

担当T氏:「あと少しのチェックと承認だけですから、出ることはほぼ間違いありません」

私:「そんな事でも言ってみるもんだね〜」

 

この薬も発売になって随分たちますが、未だにメーカーからの社長賞も厚生労働大臣からの感謝状も来ておりません。

おかしい?かなり売れてるみたいなんだけど・・・・?

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