理事長の呟き

〜アンチエイジング医療に邁進する精神科医のひとり言〜

Vol.215

遺伝子診断

kobayashiDR


全国的に今年は梅雨入りが早いようです。そうなると夏も早くやってきて酷暑となってしまうのか?意外と気温だけではなく湿度の上昇も影響して熱中症を引き起こすケースもこの時季少なくありません。そんな6月にはや突入となりましたが、コラム読者の皆様はお元気にお過ごしでございますか。

まあここ最近のビックリと言えば、やはりブラピ&アンジーご夫妻の件と言っても過言ではないでしょう。まず初めは奥様の方でしたが、遺伝子診断で乳癌の確率を調べた結果、将来的なリスクを鑑みて乳房除去術ならびに再建術を施行されたとのことでした。

遺伝子の解析がどんどんと進み、疾患はいよいよ“治療”から“予防”、そしてついには“予想”へと変わっていく時代に突入といった感は否めません。これからの医療は怪我や事故といった突発的な予期せぬもの以外は、遺伝子で全て洗い出してしまう事になるわけです。その怪我だって遺伝子によっては傷の治り具合がまたまた変わってしまうという現実を突きつけられることもあるでしょう(汗)。

確かに病気になってハッピーな気持ちになれる人は(詐病以外は)いません。ですから入院患者さんには何らかのメンタルなサポートが必要な場合も多く存在したり発生したりする為、私自身も大学病院に勤務していた時代は他科の病棟に往診をする“コンサルテーション・リエゾン”を担当しておりました事はこのコラムでも以前(かなり前ですね)お話させていただきました。

まあ言ってみれば、このような仕事(他科とのコラボレーションと言った感じでしょうか)が現在の診療に携わる基盤になっているといっても過言ではありません。
十人十色で皆さん異なる捉え方になると思いますが病気に“なってから”感じることと、病気に“なるかもしれない”で感じることは意味合いもずいぶんと違うはずです。なってしまえば「まな板の上のコイ」になれるかもしれませんが、「●□%の確率でなるかもしれませんが・・・」ではそのpercentageによるのでしょうけれど、それこそ五分五分と言われたら今回アンジーはどうしていたのでしょう。

いや~多分五分五分なら切っているでしょうね。おそらくあの潔さならきっと。女性にとって妊娠・出産・育児という種の保存の可能性がゼロになってしまうと、乳房はその後の人生に絶対的に必要な器官かと問われたら、まあそれ以外の必要性が全く“ない”とは決して言えませんが、それが無いことで生命に直接の影響を及ぼすことはございません。だからと言っていくつの方でも女性にとって「はいわかりました!すぐとってしまいましょう」とはいかないはずのものです。

そしてこれは我々が日々ここで対応させて頂いている“髪”についても同じことが言えるわけです。薄毛が生命維持に直接何らかの影響を及ぼすのか?当然生理学的には100%影響ありません。しかし髪がなくなることが『死ぬ事よりも辛い』と訴えて我々の所に来院される方も沢山いらっしゃるのは事実です。

アンジーは1975年6月4日生まれの現在37歳(あと3日で38歳ですね)だそうで、もちろん閉経にはまだまだ時間もあるし、いくら形成外科の技術が進んでいるとはいえ女優という仕事柄だけでなく、妻として、母として、そして1人の女性としてこの決断に至るには様々な葛藤もおありだったしょう。今回のケースを髪の毛で例えれば、「今後は必ずカツラを装着してカメラの前に立ちます!」と宣言する心境と同じなのではないでしょうか。

でもそれは誰が何と言おうと最終的に自分が決断する自己責任の上に立ってのものです。ところが同じ遺伝子診断でも「本人の意志」ではなく、父や母になる「予定の
人達」からそこから先をすべて決めつけられてしまう“出生前診断”が我が国でも過日より物議を醸しております。これは同じ遺伝子診断でもアンジーのケースとは少しニュアンスも異なってくるかと思いますが如何でしょうか?

私は基本的に子供とは『授かる』ものだと思っております。ですから授けられる側の方から「これがいい、あれがいい、こ~してくれ、あ~してくれ」と色々なリクエスト(勝手に願う事は問題ありませんし自由です)をしたうえで、最終的にその「予定の人達」の判断で生まれる前から究極の“アンチ”エイジングをさせられてしまうケースについて果たしてどうなのかな~?と思う側の人間(医師としてではなく)です。

検査とは基本的に疾病の存在を発見し、最終的には確定するための手段です。早期発見早期治療が大切であることは、今度は人間としてではなく医師として重要と思う側にいます。しかし遺伝子検査による結果に対しては、その問題になった遺伝子そのものに手を付けない限りは根本的な治療は不可能なのであります。

いつの日かその遺伝子までもが治療の対象となる時代が来るのかもしれません。しかし今のところ注目されている遺伝子診断とは、その結果を受けて「それではこうやって加療をしていきましょうか」といったものよりも、白か黒か、yesかnoか、という対極の決断を強いてしまうものがまさにクローズアップされています。

私事で恐縮ですが、実は我が家も結婚してなかなか子供を授かることが出来ませんでした。当然そうこうするうちに「予定の人達」も歳を取っていくわけですから様々なリスクの確率は上がってきます。そこで当時は今回のような血液検査で遺伝子診断なんてできませんでしたから、どうしてもの場合は羊水検査しか選択肢はありませんでした。

お腹から針を刺して子宮内の羊水を摂取するわけですから検査そのものにも色々なリスクは付きまといます。しかしその検査結果を知ることでそこから先がどうしたいのか自分自身の中での回答が出せずに悶々としていたところ、知人の産科医から一言ありました。「その子供はそこの家庭でなら生まれてきても大丈夫だよ、と神様が割り振るんです」と。その一言で自分の中のモヤモヤは一掃されて我が家ではその類の検査は一切しないまま今の娘を授かりました。

幼いころから私は「医学の進歩とは全ての人を幸せにするものだ!」と思ってこの道を選んだ経緯もあるのですが、最近ではその進歩に伴ってゆりかご(の前)から墓場(の前)まで、色々と考えさせられる問題がその一方では逆に増えているように思えて仕方がありません。





雉も鳴かずば撃たれまいに・・・。

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